救民妙薬のハーブ紹介vol.11『ニッケイ』
「ニッキ」としておなじみのニッケイ(学名:Cinnamomum sieboldii Meisn.)は江戸時代に渡来し、鹿児島、高知など暖かい地方で栽培されてきました。高さ10〜15mの樹木で、葉は先端が尖った長楕円形で3本のはっきりした葉脈をもちます。生薬名は「日本肉桂」または「日本桂皮」といいます。
ニッキはニッケイ(肉桂)が訛った呼び方です。ニッキの香り、ニッキの味は日本ではおなじみで、ニッキ飴、ニッキ水など日常に利用されてきました。昔は駄菓子屋に肉桂の根を赤いテープで縛ったものがニッキの名前で売られていたそうです。
ニッケイは地上部より根の方が味も香りもよいため、根の皮が使われます。細い根ほど精油成分量が高く、高級品とされます。樹皮を使うシナモン(セイロンシナモンまたはカッシア)と違って、ニッケイは大木に育った木の根を掘り出し、糸のように細い根まで丁寧に集めるのですから、非常に手数がかかります。カッシアやセイロンシナモンが安価で輸入されるようになった現在では需要がなくなり利用されなくなりました。
生薬として利用する場合は、6~7月頃に先端の細い根を掘り採って水洗いし、たたいて剥がした皮を天日干しにします。これを「日本肉桂(日本桂皮)」といい、食欲不振や消化不良には、粉末0.5~1gを1日量とし、2回に分けて食前に水で服用します。芳香健胃薬として、また発汗、解熱剤として各種の漢方処方にも配合されています。
ニッケイの楽しみ方
昔の駄菓子ニッキ
6〜7月に先端部の細い根を掘り採って水洗いをして天日干しにします。10センチほどにして、噛んで味と香りを駄菓子として楽しみます。
浴剤
ニッケイの葉を陰干しにし、布袋に詰めて、お風呂に入れて利用することができます。体を温める効能があるといわれています。クスノキ科のクスノキ、月桂樹、クロモジなども同様の効果が期待できるので混ぜて浴剤を作ることも可能です。
今回は、生の葉を刻んで手浴をしてみました。シナモンに似たスッとする香りが立ち上ります。全身浴が難しい場合は手先や足先を温めるだけでもとてもリラックスできるものです。時間があれば小さな鍋で煮立てて、より成分を抽出させて温度を調節して利用するとよいでしょう。
今回は少し大きめのだしパックを利用してみました。木綿の袋や洗濯ネットでも代用できます。
救民妙薬では
接骨薬(ほねつき)として、肉桂の粉を膠にてとき痛む所に厚く塗り、そのうえを柳のにて簀(すのこ)をあみ包み置くとあります。
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早いもので今年も年末となりました。今年の夏はとても暑く長く、秋が短く感じました。
お陰様で弊社は今年20周年を迎えることが出来ました。その記念として、水戸藩第2代藩主の徳川光圀公がつくらせた日本最古の家庭療法本『救民妙薬』を手本に、弊社隣接のハーブガーデンの「薬草・薬木のエリア」を(『救民妙薬』に登場するハーブを中心に充実させ)整備しました。そして1年間『救民妙薬』のハーブと「日本の薬用植物」に関してのブログを書いてまいりました。あわせて「現代版救民妙薬」として小冊子を発行、来園の皆様にお渡ししました。日頃の生活習慣や身近な植物で身体を手当てし整えるすべを次の世代に残していきたいと思っております。
このブログも2014年1月から毎月続けて今回でちょうど11年となり、132種のハーブを紹介させていただきました。12年目の来年からは、また世界のハーブにも目を向けてまいります。ひとときの読み物として日頃の試みとしてお楽しみいただけましたら幸いです。
皆様の健やかで充実した日々をお祈りいたしております。
鈴木さちよ
救民妙薬とは?
「水戸黄門様」として知られる水戸藩2代藩主・徳川光圀公が藩医穂積甫庵(ほづみほあん)に命じてつくらせた日本最古の家庭療法本(1693年)。
手帳ほどのサイズで、中風の妙薬にはじまり、酒毒・蛇咬(へびくい)・痔・しもやけ・虫歯・頭痛・脚気・腹痛・おこり(マラリア等の熱病)等、手軽に入手できる薬草を主に用いる処方397種が130項にわたって平易な言葉で記載されており、明治・大正まで続くロングセラーとなりました。
参考文献
「自分で採れる薬になる植物図鑑」柏書房 増田和夫監修
「身近な薬用植物」指田豊・木原浩著 平凡社
「長寿への道 薬草健康知恵袋」福島辰三著 水戸藩薬草農園研究所
「救民妙薬注釈」水戸市医師会会史編纂委員会
ブログ著
鈴木さちよ
ブログ監修
管理栄養士 坂本禮子