古代の聖なる香り『ミルラ』
ミルラの和名は没薬(もつやく)、学名はCommiphora myrrhaといいます。属名のCommiphoraの語源はギリシャ語のKommi(樹脂、粘質ゴム)、ギリシャ語のphoros(もたらす、運ぶ)の合成語で「樹脂を生じる」の意味です。種小名のmyrrhaはアラビア語のmurr、アラム語のmuraから派生した言葉で、murrは「苦い、苦味」を意味します。イギリスでの呼び名のmyrrh(マー)は種小名Myrrhaから。

古代エジプトでは、死者の保存のために内臓を取り除いてミルラを詰め込み、乾燥させ、ミイラを作りました。このことからミルラはミイラの語源とも言われています。当時のエジプトでミルラは黄金と同じくらい貴重で、ミルラを用いたミイラは特上とされていました。また、エジプト人が用いた最も著名な合成香料「クフィ(聖なる煙)」をはじめ、エジプトで作られる多くの香膏にはミルラが配合されています。
ミルラは中東とアフリカが原産地で、熱帯の乾燥した石灰質の岩山などに生息します。トゲのある灌木の一般名であり、これらの灌木が樹皮の傷から出す香り高いゴム状樹脂の名前でもあります。この樹脂は古代から香り、お香、医薬品として大切にされてきました。特に精油は古代の聖なる香りと呼ばれています。

また、ミルラは、旧約聖書にも登場し、イエスキリストに三人の賢者が捧げた3つの贈り物のうちの1つとして有名です。ミルラは宗教儀式でも清めの香油として用いられ、死者に塗布するものでもあったので「死」と「犠牲」のシンボルになりました。
ミルラは古代の中東では、ヨモギとタイムと混ぜて燻蒸剤にされました。また、ゴム状樹脂を熟した炭で焚き、祈りにふさわしい瞑想効果をもつお香にも用いられました。一部のキリスト教の教会では、鎖のついた、あるいは天井から吊るした香壺の中にミルラやヨモギやタイムを入れて火をつけ煙を出しながら壺を振り回します。今日では、ミルラはしばしば乳香(フランキンセンス)と混ぜて線香にされます。ムスクに似た深い香りは沈んだ気分を高揚させてくれます。
2024年10月にイタリアのハーブ界重鎮のルイジ先生からポプリづくりの講習を受けたことがあります。その時の材料のハーブにもミルラが入っていました。


イタリアのハーブ界の重鎮Luigi Giannelli Tre先生と
また、同じくイタリアのフィレンツェで訪れた香りの専門店では、ミルラを炭の上に置いて焚いて室内を燻蒸していました。


ミルラの薫香
ミルラの楽しみ方
ミルラ精油のブレンド
<材料>
フランキンセンス 4滴
ミルラ 3滴
マジョラム 2滴
サンダルウッド 1滴
中性ジェル※ 45mL
※中性ジェルは「納豆ジェル(https://s-herb.com/natto/gel/)」、または少し重くなりますがワセリンでも代用できます。
<作り方>
ビーカーに中性ジェルを入れ、材料の精油を1滴ずつ加え、よくかき混ぜます。
消毒済みの保存用の容器に入れて出来上がりです。
書斎の香りとしてのブレンドです。個人的な場所だけに、用途に合わせて好きな香りを使用するといいでしょう。また、読書や画集を楽しむときには、内容と香りを合わせると楽しみが倍増するかもしれません。書斎の広さに合わせて香りの強さを調節して下さい。長時間強い香りの空間にいると頭痛を引き起こすこともあるので時々換気も行ってください。このブレンドは人生について静かに考えたいときに良いとされているブレンドです。来年からの計画などをする場合にもおすすめです。
ミルラのチンキ
<材料>
ミルラ樹脂 10g
無水アルコール 100cc
<作り方>
樹脂が大きな塊の場合は乳鉢などで軽く割ってから利用すると抽出しやすくなります。清潔なガラス瓶に材料を入れ冷暗所で10~14日間保管します。1日1回振ります。樹脂分が徐々に溶け、液体が琥珀色に変化します。日にちを経過したらコーヒーフィルターなどで濾して粗い樹脂片を完全に取り除きましょう。遮光瓶に移して保存して約1年利用できます。
ミルラのチンキはうがい液として利用できます。水を入れたコップにチンキを2、3滴落として利用して下さい。
*ご挨拶*
今年1年は世界のハーブを幅広く紹介しました。天の香りと言われるフランキンセンスに始まり地の香りでもあるミルラで今年を締めくくります。読んでいただきましてありがとうございました。
参考文献・URL
「ハーブの写真図鑑」日本ヴォーグ社
「ケモタイプ精油小事典」NARD JAPAN
「ハーブ学名語源事典」東京堂出版
「世界のハーブ〜歴史と効能をひもとく植物図鑑」DK社
ブログ著
鈴木さちよ
ブログ監修
管理栄養士 坂本禮子

