映画で、あなたの普通が広がる体験を vol.1『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』

あなたが何も見えなかったら、何も聞こえなかったら、この世界をどんな風に感じているのでしょうか？「普通」という言葉の定義は難しいですが、見える人、聞こえる人の普通からすると、不便さ、生きづらさを多く感じるかもしれませんし、もしかすると、全てが無限大に輝いているのかもしれません。

自己紹介が遅くなりました、私は茨城県の那珂市瓜連というところで、31席のミニシアターを運営している大内靖と申します。この度、鈴木ハーブ研究所様が当劇場に興味を持ってくださり、光栄なことにwebマガジンで映画について寄稿をさせていただけることになりました。このような貴重な機会をいただきありがとうございます。

「見て」「聞く」ことで楽しむ映画の紹介の冒頭から、「見えないこと」「聞こえないこと」の話をしましたが、第一回でご紹介したいのは『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』というドキュメンタリー映画です。全盲の白鳥建二さん（水戸市在住）が、水戸から東京、新潟、そして福島へ、アート作品をめぐりながら旅をする日常を追い続ける作品です。

アートを鑑賞している白鳥さん（真ん中）

「見えない人がアート鑑賞？」と疑問を持つ方も多いかもしれませんが、白鳥さんは友人や、美術館で働く方、そして新しく出会う人たちと、会話を通してアートを楽しんでいくのです。その会話は専門的な解説のような難しいものではなくて、誰でも感じたことを表現すれば良い、とっても自由な言葉の表現です。物体として見ることのできない、そして触れることも出来ない、白鳥さんにとってある種存在を信じられない対象であるアートが、みんなの自由な言葉を通して、白鳥さんの中でしっかりと存在を確立させていきます。
そして白鳥さんの世界の中で見えたアートは、私たちが物体として正しく見えている（と思っている）アートより、ずっと豊かで確かな存在になっていることを感じ、私は世界が変わった衝撃を受けました。と同時に、私は映画が好きでずっと観てきましたが、実は映画の何も見えていなかったかもしれないということも痛感しました。
白鳥さんは「見る」ことの本当の楽しさと大切さと自由さを教えてくれるような気がするのです。

見慣れた水戸の街並みを、目の見えない白鳥さんが白杖を使って、進む方向を確かめながら歩いています。
何かに触れている事は自分の存在を確かめられる瞬間でもあります。
歩いている、触れている、その一瞬一瞬のつながりが、生きていることであり、いかに貴重で輝いているのか、目の見える私はいとも簡単に感じられなくなっています。

水戸市にある千波湖の遊歩道を友人と歩く白鳥さん（真ん中）

本作に出てくる水戸の街並みが見慣れた風景だと思っていたのは、私の思い込み。私の想像力がいかに欠如し、バイアスだらけの感覚の中で物事を捉えているのか……。もっと多角的に、自由に表現して、伝えて、共有し合えたら、人の「分断」は少しはなくなるのかもしれません。

まずは本作を観て、その体験をあなたなりの自由な言葉で誰かに伝えて、そして他の方がまた関心を持ってくれたら、世界はずっと広く豊かになる。映画を通して、白鳥さんとアートを見に出掛けて、あなたが見ている普通を広げてみませんか？

あまや座　支配人　大内靖

作品上映情報

『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』

あまや座にて再上映　　1週間限定
2024年4/20（土）〜26（金）10:05〜12:02

【出演】白鳥建二、佐藤麻衣子、川内有緒、森山純子、他
【監督】三好大輔、川内有緒
2022年製作／107分／G／日本／配給：アルプスピクチャーズ
©ALPS PICTURES

公式HP : https://shiratoriart.jp/

予告編　https://www.youtube.com/watch?v=Sn9agYo0q1U

（作品説明）

恋人とのデートがきっかけで初めて美術館を訪れた全盲の白鳥さんは、「全盲でもアートを見ることはできるのかも」と、あちこちの美術館を訪れるように。いつの間にか「自由な会話を使ったアート鑑賞」という独自の鑑賞法を編み出しました。
水戸から東京、新潟、そして福島へ。アート作品をめぐりながら旅する白鳥さんと友人たち、美術館で働く人々、新たに白鳥さんと出会った人々が紡ぎ出す豊かで自由な会話。その旅路や見えない日常を追ったドキュメンタリー。