乾燥した根茎が香りを留める『イリス』
イリス(orris)はアヤメ科アイリス属の植物で、別名はオリス、ニオイアヤメ。学名はIris florentina L. で、この属名Irisは「虹」と言う意味で、ギリシャ神話の「虹の女神イリス」にちなんだものです。これはすべてのアヤメ属(アイリス属)の古名で、多彩な花色に由来するものです。種小名florentinaはイタリアの都市フィレンツェ(英名:フローレンス)にちなみます。又、採取家の名前(フロレント)に由来しするものでもあります。

鈴木ハーブ研究所ハーブガーデンのイリス(ニオイアヤメ)
南ヨーロッパの地中海性気候の地が原産で、日当たりと水はけのよい土壌で乾燥した場所を好みます。高さ60〜100㎝になる多年生植物です。葉は高さ50㎝ほどの剣型をしており、初夏に高さ約60㎝の花茎を伸ばし、茎の頂点に香りの良い柔らかで大きな花を3〜4個つけます。花は甘い香りを持ちますが、ハーブとして利用されるのは根茎です。根茎は乾燥するとスイートバイオレットのような甘い香りがします。

イリスの葉
根茎には鎮静作用があり、古代ギリシアやローマ時代以来、根茎は主として香料に用い、根を乾燥させた粉末を選択のすすぎ水に混ぜ、麻布の香り付けなどに用いられました。中世のフェレンツェ(ミケランジェロ広場の近く)で栽培されたことから市の紋章となっています。(現在は百合の紋章と呼ばれていますが、本来はイリスが由来だそうです)
日本には1867年ごろ香料として伝来しました。
現在では、リキュールの風味付けや化粧品の原料としても利用されています。乾燥した根茎は香りを固定する作用があるので古くから現代までポプリの保留剤として用いられています。根茎はオリスルートという名前で出回っています。これは3年ほど栽培した太った根茎を秋に掘り出し、洗浄して表皮を剥ぎさらに2〜3年乾燥させすりおろして粉状にするか細かく砕いて利用します。この状態になったものは何年も甘い香りを保つことが可能です。

イリスの根茎(オリスルート)を粉状にしたもの
イリスの楽しみ方
ポプリ
ポプリ(pot-pourri)とは、フランス語のpot pourri「ごった煮料理」が語源で直訳すると腐った鍋を意味します。多様な材料を混ぜて容器に入れ熟成させて作ったことが由来です。

フィレンツェのサンタマリアノッベーラ本店に展示されているポプリ
ポプリにはドライポプリとモイストポプリの2種類がありますが、どちらも花や葉、ハーブ(香草)、スパイス(香辛料)、木の実、果物の皮や苔、を組み合わせ、精油やポプリオイルやチンキなどの香料を混ぜ合わせて容器に入れます。2週間〜2ヶ月ほど熟成させて香りを完成させ、美しい器やそのままでも香りが感じられる素焼きのポプリポットなどに入れて玄関や寝室などに飾り、室内香として利用します。
香りは中枢神経に届き、人間の本能を揺さぶります。忘れていた感覚や記憶を呼び覚ます力があります。その香りをとどめてくれる役割を持つのがイリスの根(オリスルート)で、ポプリには欠かせない保留剤です。根を乾燥させたものを砕いたり、粉にして利用します。オリスルートに様々なアイテムを配合し、想い想いのブレンドを完成させます。作りたては香りが強すぎると感じても、熟成を経ると香りの角が取れバランス良くまとまってきます。

30年過ぎてもバラの香りが残っているポプリ
昨年イタリアで紹介された30年前のポプリは蓋をあけるとバラの匂いがしました。
※オリスルートは皮膚にアレルギー作用を起こすことがあるので注意します。
参考文献
「ハーブのすべててがわかる事典」ナツメ社
「ハーブの写真図鑑」日本ヴォーグ社
ブログ著
鈴木さちよ
ブログ監修
管理栄養士 坂本禮子