「おいしいボタニカル・アート」展
学芸員 澤渡さんインタビュー <後編>
最近人気が高まっているボタニカル・アート(植物画)。現在、茨城県近代美術館で「英国キュー王立植物園 おいしいボタニカル・アート 食を彩る植物のものがたり」展が4月14日(日)まで開催中です。今回は、茨城県近代美術館の首席学芸員澤渡さんに、展示についてお伺いしてきました。
聞き手/鈴木ハーブ研究所 代表鈴木、スタッフ雨谷
ハーブのボタニカル・アート
雨谷:展示の中にハーブの絵もあったと思いますが、そちらも本の挿絵ですか?
澤渡さん:『カーティス・ボタニカル・マガジン』に掲載されたハーブの絵ですね。『 カーティス・ボタニカル・マガジン』は1787年に創刊された、現在も刊行されているものとしては最古の植物学の学術誌です。現在はキュー王立植物園が発行しています。
珍しい異国の綺麗なお花なども掲載され、植物学の専門誌ではありますが、アマチュアの愛好家など、かなり幅広い購読者層を獲得したようです。
鈴木:日本でも最古の家庭療養本で、徳川光圀が作らせた水戸藩の『救民妙薬』がありますが、文字だけで絵が無いので、これが何の植物かというのは、今でも大きく揺れるところがあります。やはり絵があると確認しやすいですね。
雨谷:この『カルペパー薬草大全』もハーブの本ですか。
鈴木:ニコラス・カルペパーは薬草学者で、占星術師でもあった人ですよね。
澤渡さん:『カルペパー薬草大全』は、400種類以上の薬草の効用や特徴などを解説した本です。特徴としては、ラテン語ではなく英語で書かれたという点ですね。薬草の知識は、ラテン語が読める知識人や富裕層に独占されていたのですが、英語で出版されることによって一般の人々がアクセスすることができるようになりました。この本はロングセラーになりましたが、こういう本があれば、一般の人でも、例えば家の裏庭にハーブを植えて、簡単な治療に使えるようになりますよね。
鈴木:現代も自然に触れる機会が減ってきているので、こういった知識は継承していきたいですね。ミントはお茶になるし、スギナも食べ物になるし。もっと身近に生えているオオバコやぺんぺん草なども、意外と利用できるので、何がしかで伝えていきたいと思いますね。
現在のキュー王立植物園のハーブ活用について
雨谷:現在のキュー王立植物園ではハーブはどのように活用されていますか?
澤渡さん:例えば“パビリオン バー アンド グリル”というレストランの横にハーブガーデンがあり、実際に料理に使用しているそうです。
他にも“キッチンガーデン”など、ハーブが植えられているところがいくつかあるようです。
ハーブについての書籍も出版されていますね。例えば、『The Gardenerʼs Companion to Medical Plants』は日本語訳も出ています。
展示の見どころや注目してほしいポイント
雨谷:最後に、今回の展示の見どころや注目してほしいポイントがありましたら教えてください。
澤渡さん:まずはボタニカル・アートを一点一点じっくり見ていただけると嬉しいですね。一見派手さはないんですけど、実物を見ると非常に描写が優れていて、一流の植物画家の仕事に目を見張るところがあります。
また、それぞれの作品の背景には、イギリスの歴史や食、あるいは植物にまつわる色々なエピソードがあります。これらを合わせて知っていただくことで、日々自分が接している食べ物や植物に、もっと違った見方で接することができるようになるかな、とも思います。
そのほか、器の類いも多く展示されていますので、食器がお好きな方には興味深いと思います。
本当に多彩で様々な種類の作品や資料をご覧いただけますので、色々な切り口から展覧会を楽しんでいただければと思います。
鈴木:ちなみにアートを楽しむコツなどはありますか?
澤渡さん:自分から積極的に見ようとすることですね。
私はよく人間関係に例えるのですが、誰かと対峙したときに目に見えているその人の外見だけではなく、その人のバックグラウンドを知ろうとしたり、内面を想像したりしますよね。
同じように、アート作品ってサーッと上辺だけ眺めることも可能ですが、自分から積極的に作品の背景について知ろうとすると、何かしら見えてくるものがあると思います。
茨城県近代美術館
水と緑あふれる千波湖のほとりに1988年に開館。建物の設計は建築家 吉村順三氏によるもの。茨城ゆかりの作家たちの作品のほか、国内の近現代美術の著名な作家による作品、ギュスターヴ・クールベ、クロード・モネ、オーギュスト・ルノワール、オーギュスト・ロダンなどヨーロッパの美術作品も収集している。
ホームページ https://www.modernart.museum.ibk.ed.jp/
<今後の企画展のご紹介>
石岡瑛子 I デザイン
2024年4月27日(土)~7月7日(日)
デザイナー、アートディレクターとして人々に新しい価値観を提示し、広告、舞台、映画など多岐に渡る分野で国際 的に活躍した石岡瑛子(1938-2012)。本展では資生堂や PARCO の広告など前半期の代表作を中心に、彼女の 飽くなき情熱が刻み込まれた約 500 点の作品を一挙公開。今なお鮮烈な輝きを放つ石岡瑛子の仕事の本質に迫るとともに、その創造の核となった「I=私」を浮き彫りにします。
没後100年 中村彝展
2024年11月10日(日)~2025年1月13日(月・祝)
水戸市出身の洋画家・中村彝(1887-1924)の没後100年を記念して開催する展覧会。作品に描かれたテーブルや椅子など遺品類、あるいはルノワールやセザンヌなど影響を受けた西洋美術作品と彝の作品を比較することで、彝が何を見て、何を描こうとしたのかをさぐります。また、画家を支援した人々の存在に着目し、大正という時代の豊かさに迫ります。