造園家・阿部容子さん インタビュー*後編*『ハーブガーデンへの想い』with 鈴木さちよ
「ハーブガーデン作業日記」特別編として、弊社ハーブガーデンのデザインを手掛けられた、ガーデンデザイナー・阿部容子さんへのインタビューをお届けしています。今回はその後編として、阿部さんと弊社代表鈴木さちよのお二人に、ハーブガーデンへの想いをお聴きしました。
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PROFILE
阿部容子さん(写真右)
造園家・ガーデンデザイナー。岐阜県にある造園事務所「かたくり工房」所属。ヨーロッパやアメリカなど海外での研修や現場の視察を経て、園芸療法にも造詣が深く、個人邸から公共施設まで、全国各地の庭・公園のデザインを手掛ける。鈴木ハーブ研究所のハーブガーデンは、弊社代表鈴木さちよの植物や庭への想いを阿部さんがデザインし、設計・施工された。
鈴木さちよ(写真左)
鈴木ハーブ研究所代表。幼いころより植物に触れて育ち、20代よりハーブについて学んできた知識をスキンケア製品づくりや地域活動に活かす。ハーブ、自然への考え方は、ハーブガーデンの設計や維持管理にも反映されている。
聞き手/鈴木ハーブ研究所 スタッフ家田、スタッフ雨谷
※以下、敬称は省略させていただきます
ハーブガーデンに取り入れた考え方
家田:まず、鈴木社長にお聞きしたいのですが、お庭のデザインを阿部さんに依頼するにあたって、どのような要望をお伝えしたのですか?
鈴木:ハーブ(薬用植物)を中心に、生活の中で利用できる庭にしてほしいということでお願いしました。他の要望としては、社屋や自宅と一体化して全体のテイストがまとまるようにということ、昔からの日本庭園にあった大きな石などは再利用してほしいということ、それから、10年かけて完成させたいということもお伝えしました。
実は、庭を作るにあたって、何度か失敗した後だったのです。どうしたら納得できる庭になるのだろうと試行錯誤し、全国のあちこちのお庭へ見学に行き、ガーデンに関連する本もたくさん読みました。阿部さんに巡り会うことができ、岐阜のかたくり工房さんにうかがい、庭について思いのたけをお伝えしました。
家田:阿部さんは、鈴木社長の要望をおききになって、どのように感じましたか?
阿部:まず「ハーブ」というテーマがあったので、そこから広げていくということと、自然に対する鈴木さんのお考えというものが主軸としてしっかりあったので、私はそこに寄り添えればいいなと考えました。あとはサンプルガーデンにもなるべきところでしたので、ここの環境に合うものをどれだけ集められるかというのが楽しかったです。
鈴木:その時の(ご依頼した時の)言葉とかもう忘れちゃったんですけど(笑)
阿部:鈴木さんは、もともと自然や人に寄り添うようなお考えをお持ちですよね。雨水に関してもそうですし、朽ちたものは自然に返すということや、人が集まる場所にしたいということもおっしゃっていました。他にも通路の長さですとかいろんな課題をいただいて、楽しかったです(笑)。「好きにやって」といわれるよりも、明確な目的やご要望がある方がやりがいを感じます。
鈴木:普段は全然でてこないんですけど、阿部さんに聴いていただく中で、「これはこう、それはそう」って色々出てきて(笑)
阿部:ヒアリングの重要さって、そこですよね。
逆にお話をいただく中で、湧いて出てくる単語の中から新たに勉強させていただくことにもなるので、本当に面白かったですね。
「こういうふうにしたい」っておっしゃっても、うちの技術不足等でその通りにできないことや、経験上別の提案をさせていただくこともあります。たとえば、流れの脇の斜面を芝にすることをご提案したのですが、鈴木さんは、人工的な空間になってしまうのではないか、芝刈りが大変なのではとすごく不安になられていたんです。
雨谷:芝刈りをしなくても大丈夫なんですか?
阿部:芝はもともと自然界に存在するもので、芝刈りをするのは人間の都合なんです。川の護岸(法面)を(雨水に削られないように)保護するためのご提案だったのですが、「芝刈りはしないでください。芝刈りをしない方がナチュラルになります。」とあわててお伝えしました。
鈴木:きれいにしたい方もいるんですよね。
阿部:そうなんです!芝生となったら刈らなきゃいけないと考える方もいらっしゃるんですが、場所によって、庭の方向性によっては、刈らない方が良いんです。それをきちんとご説明しなければならないということも、逆に勉強させていただきました。
ハーブを暮らしの中に
雨谷:植栽するためのハーブを集めたり植えたりするにあたって、こだわりや苦労された点などはありますか?
阿部:今までショーガーデンやフラワーパークなどでハーブガーデンを作ってきていることもあり、年とともに生産農家さんなどの知り合いもたくさん増えましたので、ハーブを集めることに関しては大丈夫でした。ただ、入れたいけど、普通に植えると大変なことになるような種類(代表選手がミントですが・・・)があります。そういったハーブは直に植えないやり方などをご提案して、納得していただけました。
雨谷:阿部さんご自身も、ハーブを暮らしに取り入れていらっしゃるのですか?
阿部:いわゆる「キレイ」な使い方ではなくて、雑なんですが(笑)、例えば剪定した月桂樹の枝をその場でリースにして、そのまま1年間支柱として使ったり、今の時期ですと、ローズマリーを麦茶用のティーバッグに詰めてブーツに入れて消臭剤にしたり。鈴木さんのようにカワイくして皆さんに差し上げるようなことはできないんですよ(笑)
鈴木:消臭剤は月桂樹でもいけますね。
阿部:せっかくハーブを植えて、ある程度効用がわかっていても、以前は実際に使いこなすまでには至っていなかったのですが、こういう風にお話する中で、今のように鈴木さんから知恵をいただくことも多いです。ただ、雑です、私の使い方は(笑)。
鈴木:あまり丁寧に使ってしまうと捨てられなくなったりしますよね。
阿部:そこなんですよね!
鈴木:消耗品になるくらい、使った方が本当はいいんですよね。
阿部:鈴木ハーブ研究所さんのように、たくさんの方のために使うところは捌けていいのですが、普通はそうはいかないので、個人邸のお客様にはどんどん使っていいよということはお伝えしています。ちょこちょこ切り戻すのが、夏場は蒸れを防ぐことにもなりますし、ハーブの生育にとっても良いんです。
家田:ミントやローズマリーなどはどんどん増えたり大きくなったりしてしまいますが、どう活用したらよいでしょうか。
鈴木:夏場ミントがたくさんあるときは、目の細かい洗濯用のネットに入れてお風呂に入れるとよいですよ!入浴するとスッキリします。とっても簡単にできます。
(剪定したローズマリーの枝を見ながら)ローズマリーの葉だけポプリなどに使って、残った枝にお肉を刺してバーベキューとかもいいですね。ミントもお料理や飲み物に活用できますよ。
雨谷:素敵なアイディアですね!簡単そうなので、早速やってみようと思います。
阿部:ハーブを使ったクラフト(※手作りの日用品・工芸品)のことは鈴木さんから教えてもらうことも多いです。
もともと実家が花屋だったので、クラフト系のことはやってはいたのですが、一般の人が手間をかけないで自分の庭のものでできるというところが良いですよね。
鈴木:阿部さんは、リースを作るのも、紐も何も使わないでグルグル作るのが得意ですよね!
阿部:そうですね。道具があればそれもよいのですが、庭仕事中は手元になかったりするので(笑)。
鈴木:針金を使ったりグルーガンを使ったりすると、もっとキレイなリースができるのですが、私は始末のことを考えて、自然素材だけで作ることが多いです。
10年かけてつくるハーブガーデン
家田:このハーブガーデンを10年かけて作っていくというプランについて、具体的に教えていただけますか?
阿部:エリアを分けて順番につくっていくというやり方もできるのですが、この庭は一般公開を前提にしており、最初からある程度鑑賞に堪えるようにする必要があったので、まず骨格を作って、あとからレイヤーをかけていくというやり方を採用しました。
「骨格」というのは、後から動かしたり変更することが難しいようなものです。メインの園路や水路、大きく育つ樹木などです。その後、少しずつ中低木や草本類など植栽を足したり、小道を作ったり、芝生を作ったりしていきます。その方が、気候の変化や周辺環境の変化などに対応しやすいというメリットもあります。木が成長するにつれて日陰の位置が変わっていくということもありますし、飽きるということもありますね。
家と同じで、模様替えは後からできるけど、骨組みの部分は変更が難しいんです。
鈴木:その骨格の部分というのが、自分では本当にできなくて。
「会社の庭なので、自分たち(社員)で作っていきたい」というところをきちんとヒアリングして下さった上で、庭の土台になるところをしっかり作っていただけるということでしたし、メンテナンスもお願いできるということで、安心してお任せできました。阿部さんは植物療法にも造詣が深いので、「ハーブを中心に」というオーダーもできて、本当に助かりました。
阿部:ありがとうございます。でも、「10年かけて」ということをサラリとおっしゃるなんて、鈴木さんはすごいなと思いました。
育っていくハーブガーデン
家田:このハーブガーデンは造成から8年経ちました。日々の維持管理は、鈴木社長はじめ、スタッフ数名で行っていますが、阿部先生の目から見て、気づかれることはありますか?
阿部:お庭の管理は、管理する方の意図がそこに表れてくるんです。今のこの庭の一日の陽の当たり具合や、季節ごとの植物の生育など、一番よく見て分かっていらっしゃるのは鈴木さんです。年々その持ち主の方の色に染まって変化していくのを私は楽しみにしていますし、それが見たくて訪れています。変わったということは、その人のお庭になったという証です。
日々庭を管理している方は、毎日見て、歩いて、よく庭のことを知った上で管理されているので、実に基づいているのです。ここは通りにくいからこの木は切る、とか。もちろん好みも反映されていきます。我々のメンテナンスでは、大きな木の剪定・移植や園路の整備など、骨格を維持するためにお邪魔させていただくことになります。
鈴木:手入れしていく方も年をとっていくから、なるべく無理がなく手入れできるようにしていくことも大切ですよね。
阿部:あとはモグラとの闘いとか(笑)。
鈴木:モグラで大切な木が結構枯れてしまって(笑)。リキュウバイとか、メグスリノキとか・・・。紅葉がとってもきれいだったのに・・・。
雨谷:鈴木ハーブ研究所は、ハーブの力でお肌を元気にする化粧品を販売しています。そのことと、お庭での園芸療法というのは、考え方に共通するものがありますか?
阿部:それはものすごく重なっていますよね。このお庭も、その視点は取り入れていますし、すでに実践の場ともなっていますね。
鈴木:クラフト体験などのワークショップは行っていますが、今後もっと地域に開かれ、幼稚園や福祉施設の方などにも入っていただいて、植物療法の場所としても利用していただける庭として発展させていきたいと考えています。
クラフトに関しても、材料を買いそろえてやっていただくのではなく、庭のハーブを摘むところから体験していただければと思っています。キッチンスワッグだったり、モイストポプリだったり、家にあるものだけでできるようなものを。簡単すぎるかもしれませんが、その方が結局長く続くと思うので、そういうレシピを増やしていきたいです。
阿部:ローズマリーやラベンダーなどのハーブは、ただ触って香りを感じるだけでセラピーになります。香りのあるものは記憶として残るということもあります。個人庭では、通り道が多少狭くなってもわざと通る時に触れるように植栽したりすることもあります。意図しないでハーブの恩恵を受けられ、記憶に刻まれるというような暮らしというのもありかなと考えています。
鈴木:お庭って、暮らしの中に溶け込む身近な存在でもあるし、そこでとれる素材を使ってクラフトや芸術作品に昇華していくこともできる、創造力や発想力をかき立ててくれる存在でもあります。
阿部:面白い存在ですよね。
鈴木:ハーブガーデンに、心身を健康にしたり、生活をより豊かにしたり、何かを生み出す場にもなる、というような広がりをもたせたかったんです。この庭に何百種類というハーブが植栽されることで、多様性が生まれ、庭に入った時に他とは違う空気感を感じられる場所になってほしいと願いました。
家田:多くの植物が植栽されると、そこに生息する動物の種類も豊かになっていくのでしょうか?
阿部:大きな木がたくさんあるところは、鳥は安心して寄れるんですよね。
鈴木:鳥はナンテンなど美味しいものをよく知っていて、いつの間にか実の類はなくなっているんです。でも、鳥の姿が観察できるのも楽しみの一つです。
阿部:ここには高木だけでなく、中木、低木、香りがあるもの、実がなるものなど色々生えているので、いろんな虫、小動物もやってきますよね。そんな中で虫の卵が孵っても、鳥に食べられたりするので、ある程度数はセーブされ、何か特定の虫が大量発生ということにはなりにくいでしょうね。
鈴木:最近、「飛ぶ宝石」とも呼ばれる青い蜂(セイボウ)を毎年みかけるようになっています。あとは、ナナフシ、ヘビトンボ、チョウトンボ、オオウスバカゲロウなども来ています。
このように、珍しいお客様が増えたり、庭がどんどん豊かになり、変化していくのは大きな喜びです。せっかくお庭があるのだから、私たち(社員)も、お庭でお昼を食べたり、会議をしたり、もっと楽しんでいきたいですね。
~おわり~
【かたくり工房 INFO】
住所:〒505-0125 岐阜県可児郡御嵩町伏見747
TEL:0574-67-6633
http://www.katakuri.co.jp/
編集後記:スタッフ家田
そういえば、このハーブガーデンでは、植物の害になるような虫が発生しても、その被害は一部にとどまり、範囲が拡大したりいつまでも続くようなことはほとんどありません。たくさんの動植物や微生物が豊かな生態系を形成し、バランスがとれているのだと感じました。
庭という場を通して自然と親しみ、変化を楽しみ、暮らしを彩っていこうというお二人の考え方はとても素敵です。このハーブガーデンが益々豊かになり、より多くの人が楽しめる場所になるよう、メンテナンス作業を頑張っていきたいと思います。